ホオヅキについたニジュウヤホシテントウ(ナス科植物の害虫です).mp4ニジュウヤホシテントウ
ニジュウヤホシテントウ (Henosepilachna vigintioctopunctata、シノニム:Epilachna vigintioctopunctata) はテントウムシ科の昆虫の1種。テントウムシではあるが草食性で、ナス科の農作物の害虫として有名である。名前通り前翅の背面に左右合計28の黒斑がある。
〇特徴
背面は赤褐色の地に多数の黒斑を持つテントウムシである。体長は6mm程度。背面は全体に灰褐色の軟毛が密生している。頭部は点刻が一面にあり、複眼だけが黒い。前胸部の背板はその前縁が中央でくぼみ、両端が前に尖る。点刻は頭部より小さいものがより密にある。中央には黒い斑紋があり、その後方後端近くに小さい黒斑があり、これは往々にしてつながる。また両側面にも横並びに黒斑があり、これもつながることがある。小循板は赤褐色。前翅には黒斑が多い。斑紋の大きさには大小があるが、それらは前から横向きに3・4・3・3・1と列を成し、両側の前翅が合わせ目で左右の黒斑がくっつくことはない。腹面は中胸・後胸・腹部の第4節までが暗褐色をしている。なお、オオニジュウヤホシテントウと共にテントウムシダマシの名で呼ばれたこともあり、現在もネット上でも数多く確認出来るし、専門的分野でさえ見る例がある。この名はテントウムシと言えば益虫と決まっているのにこの2種が害虫であるのでこう呼んだと言われ、それを地で行く実例もあったりする。ただし主として菌食性を示すテントウダマシ科 Endomychidae という分類群が全く別に存在する。しかもこれがテントウムシダマシと表記される例もあり、注意を要する。
〇生態など
成虫も幼虫もナス科植物の葉を食べる。食べ方は独特で、葉裏から食って表の表皮を残し、太い横線を平行に並べたような独特の食痕を残す。これは肉食性の昆虫として進化してきたテントウムシ科の中でニジュウヤホシテントウの属するマダラテントウ亜科だけが植物食に食性転換した進化の履歴を示すもので、本来は食物となる昆虫を捕食するときに獲物の表皮を破って内臓を口の中にすすり込むのに適しているが植物組織を噛み取るのには適していない鎌状の大顎の先端にフォーク状の突起を得て、これで葉の裏の表皮を破って葉肉の組織を口の中にすすり込むように摂食を行うためである。年に2-3回の世代を繰り返す。越冬態は成虫で、落葉や樹皮の下、時に人家の屋根裏などで越冬し、春の宿主植物の萌芽に集まり、食害する。この成虫は約40-50日程度生存し、その間に産卵する。産卵は20-30個を一塊に産み、全体で1個体が500前後を産卵する。卵は長さ約1.5mm、細長い楕円形で濃い黄色をしており、互いに密着するような卵塊として宿主植物の葉裏に生み付けられる。幼虫は終齢で体長7-8mmになり、全体に紡錘形で背面が盛り上がっており、その背面には多数の樹状の突起が並んでいる。皮膚は白で、背面の突起も基部は白く、先端部だけが黒い。幼虫は1齢では集団で活動するが1齢末に分散し、個々に摂食するようになる。4齢が終齢で、それから脱皮して蛹になる。また孵化の際、先に孵化した幼虫が未孵化の卵を食べる。 蛹は黄白色に黄色の斑紋があり、尾端に幼虫の脱皮柄をつけている。卵の期間は7日、幼虫の期間は約30日、蛹の期間は7日である。5-6月頃になると越冬成虫と卵、幼虫、蛹、新成虫が入り混じって見られるようになる。第1世代の成虫は6月中旬から7月に、第2世代は7月下旬?8月、第3世代は9月上旬?10月に出現する。ただし成虫の生存期間が20-50日に達するため、常に各ステージのものが入り混じって見られる。10月下旬には成虫は食草を放れ、越冬場所に移動する。
〇分布
本州の温暖な地域からそれ以南の日本各地に分布し、中国、台湾、インドシナ、インド、ニューギニア、オーストラリアに分布する。本種の分布域は年平均気温14℃以上の地域である。なお近縁種のオオニジュウヤホシテントウはより北に見られ、関東地方などでは両種が混成している地域がある。
なる類似種
近縁のオオニジュウヤホシテントウ E. vigintioctomaculata は本種によく似ているがやや大きくて体長約7mm、卵塊は卵同士が接しない様に生み付けられ、幼虫では背面の樹状突起が全体に黒いこと、また年1化性である点などが異なっている。分布の面では本州では山陰地方や北陸、関東以北に見られ、他に中国からシベリアに分布する。一方、東京西郊(三多摩地区ほぼ全域)や神奈川県、埼玉県南部、千葉県・静岡県・山梨県・長野県・岐阜県・愛知県のそれぞれ一部には、おそらくルイヨウマダラテントウ E. yasutomii の食性が変化(ルイヨウボタンからナス科へ)したものと考えられる、いわゆる「東京西郊型エピラクナ」が分布している。オオニジュウヤホシテントウはコブオオニジュウヤホシテントウやルイヨウマダラテントウといった互いに酷似した複数の近縁種とともに同胞種群を形成していて種分化の研究の好材料であることが知られており、これらを分類同定することは困難を伴う。学名は黒沢他編著(1985)によった。これらオオニジュウヤホシテントウ群とニジュウヤホシテントウは識別が困難であるとして、一般向けの昆虫図鑑では「ニジュウヤホシテントウ類」としてひとまとめにしている例もある。
〇被害
ナス科の農作物に対する農業害虫として重要である。幼虫、成虫共に上記のように葉裏から食べて独特の食痕を残す。近縁の別種であるオオニジュウヤホシテントウも同様の食痕を残すので両者の区別は難しいが、それ以外の害虫の食害とは容易に区別できる。ジャガイモでは芽の出たところで成長のよい株に越冬成虫が飛来し、食害しつつ産卵を始める。それ以降は幼虫の食害も加わり、強い被害を受けた部分は枯死し、次第に被害は株全体に広がる。そのために成長遅延や塊茎の肥大阻害などの被害が出る。ナスの場合、露地栽培では6-8月に被害が目立つようになり、発生が多いと生育の遅れや減収につながる。特に苗の**うちに被害を受けると影響が大きくなる。また果実が若いうちにその表面を加害される場合があり、その場合には商品価値がなくなる。他にホオズキも食害を受ける。トマト、ピーマンも加害されるが影響が出ることは比較的少ない。成虫がカボチャ、スイカ、ヤマノイモなどを加害したとの報告もあるが、問題になっていない。なお、本種は野生のナス科植物、特に畑地周辺に普通な雑草のイヌホオズキ類やワルナスビ等でもよく繁殖する。そのため畑地周辺のこのような植物が害虫の補給源として働く面もある。本種の防除は有機リン系などの非選択性の殺虫剤が効果があるとされる。ただし従来の農業ではこのような農薬を複数種使用することが行われたのに対し、このような農薬では害虫の耐性の問題や天敵をも駆除してしまう弊害が言われるようになっている。ナスの場合、害虫のミナミキイロアザミウマ Thrips palmi に殺虫剤感受性の低下が確認され、またこの害虫の土着天敵であるヒメハナカメムシ類 Orius spp. の減少が確認され、この両者が共に働いてこのアザミウマの被害増加に影響を与えているとみられる。そのために選択的殺虫剤の利用で土着天敵の保護に配慮し、それによるアザミウマ駆除を進めたところ、今度は本種の被害が増加したとの事例がある。現在、これに対する解決を求め、ハナカメムシを保護しつつ本種を駆除できる薬剤の選定などの研究が進められている。